【感想とあらすじ】「UNWIND」ニール・シャスタマン著/望まれない子供たちが臓器提供に出される世界...

今日紹介する一冊は

ニール・シャスタマン

『Unwind』です。


あらすじ

近未来、アメリカ。社会から「不要」と判断された子供たちが【アンワインド(unwind)】という工程によって身体をバラバラにされ、「必要」であると判断された人々にパーツを分け与えられるという恐ろしい社会。そんなディストピアな社会のなかで3人のティーンエイジャーたちが大人たちから逃げ、生き延びようと逃亡する話です。


3人の登場人物はそれぞれコナー、リサ、レヴです。主人公の少年・コナーは幼少から気性が荒く喧嘩っ早いことから、親に見限られてしまい、臓器提供のため【アンワインド】に出されてしまいます。リサは孤児院のコストカットのために【アンワインド】に出された少女です。そしてレヴは両親の宗教的な思想から、【アンワインド】のために育てられた少年です。それぞれ育ち、性格、【アンワインド】に出された理由も様々ですが、ひょんなことから彼らはともに逃亡生活を送ることになります。

果たして彼らは18歳になるまで社会から逃げ続けることができるのか。それとも、つかまって臓器提供者とされてしまうのか…!ページをめくるたびに物語が急展開する近未来系ディストピアです!


登場人物

コナー・ラシター

【アンワインド】に出された少年。気性が荒く、喧嘩っ早いところがあり、それが原因で両親に見限られてしまう。

リサ・ワード

孤児院のコストカットのために【アンワインド】に出される。【アンワインド】に出される前はピアノを弾くのが得意だった。孤児院出身のため、集団生活のなかで身を守る方法を身に着けている。ケガを治療したり、子供の面倒を見るのが得意。

レヴ・キャルダー

両親の宗教的な理由によって【タイズ(tithe)】として【アンワインド】に出された少年。

【タイズ(tithe)】とは、『十分の一税』のことを差し、神に戦利品の十分の一をささげることから来ている。生まれたころから【アンワインド】に出されることを名誉であるとして育てられてきたので、当初は逃げるつもりすらなかった。

アリアナ

コナーの(元)ガールフレンド。

ダン牧師

レヴの良き指導者。レヴの両親の宗教的な思想を支持しているが、一方ではレヴの幸せを願っている。

サイルス・フィンチ(通称Cy-Fi)

過去に脳の移植を受けた青年。その影響でよく幻聴などの症状がある。


感想

めっちゃくちゃディストピアな世界観が最高でした。世界観がもう…怖い。親の署名一つで臓器提供者にされてしまう社会制度自体も怖いんだけど、それを皆が推奨している感じがもう洗脳社会感がすごくて、読んでいて背筋がゾワッと逆立つような恐ろしさがありました。

物語は基本的にコナー、リサ、レヴの3人の視点を行ったり来たりする形式で描かれるのですが、時折、「警察官」とか周囲の人視点で3人の逃亡する様子が描かれたりするので物語全体を通して立体感があってスリルがありました。


倫理を試されてる感じ


「臓器提供」を物語の中心に持ってくることによって近未来や洗脳社会の恐ろしさをあらわすと同時に、読者側の倫理観も試されているような気がしました。

臓器提供は許されるべきか?
臓器提供は一体「どこまで」許されるべきか?

というような問いかけをされていると思いました。

よく現実社会でも「遺伝子を組み替えて自分の理想の子供を作ることは許される事か」とか、「死刑制度は廃止すべきか」など様々なディベートがなされていますが、この本に登場する「臓器提供は許される事か」もその一つだと思います。
作中の主人公はみんな、強制的に臓器提供者になることを強いられた子供たちです。この一面だけ見れば、「そんな子供たちの人権を無視するような制度はおかしい!」と怒り出したくなります。
ですが、登場人物の中には、過去に臓器提供を受けて本当なら助からないような病気を治すことができた、と語る人物も多く登場します。現にこの世界では、病院にいつも新鮮な臓器が保存されており、いつでも臓器移植を提供できるように配備されています。
こういった側面を見ると「もし自分が『こちら側』の人間だったら、簡単に臓器移植を受けられるのはありがたい」と感激していると思います。
臓器提供者側と臓器提供を受ける側を同時に描くことによってこの世界のディストピア部分とユートピア部分の対比がはっきりしていて、すごくよかったです。

自分がこの社会の中にいたら、立場が変われば正反対のことを主張しているだろうな…と想像するともう何も言えなくなるというか、ただただ物語がどういう風に解決していくのか続きを早く読みたくなりました。

ハンガーゲームと似ている部分

『Unwind』の表紙は毎回スーザン・コリンズ著のハンガーゲームと比べるようなコメントを記載しています。
例えば一巻目である『Unwind』の表紙には、「Before the hunger games there was...(ハンガーゲームの前にはこんな物語があった…)」と前置きのような文章が書かれていたり…













次巻の『Unstrung』以降からは「More chilling than the hunger games(ハンガーゲームよりも怖い)」などとかなり挑戦的ともとれるコメントを書いていたりするので「ここまでダイレクトに言っちゃっていいのか?」とか心配になるんですが…(笑)。











どちらもかなり人気な作品なので問題ないのでしょう。

同じディストピア系の小説という意味ではどちらも最っっ高に絶望的でヒヤヒヤする物語でとても面白いです。

両方とも近未来のアメリカが舞台になっていて、おかしな洗脳社会の中で必死に生き延びる少年少女たちの物語です。

個人的には『ハンガーゲーム』のほうはあまり近未来のアメリカ感はないと思います。高度な遺伝子組み換えや再生技術など現代には存在しないような近未来的な技術はあるものの、
主人公が弓矢を主な武器として使っていたり、町中にほぼ車がなかったりするので、近未来というよりも『自分とは異なる世界』感のほうが強かったと思います。なので『ハンガーゲーム』はディストピア系でありながらも、どこか冒険感があって、あまり『恐ろしい』とは感じなかったのだと思います。

一方、『Unwind』のほうは『結構近い未来』感がありました。舞台は普通に車も電車も走ってる現代風の場所で、人々も拳銃を持ってたりするので、現代社会っぽい雰囲気でした。
そして、ハンガーゲームと比べるとあまり『近未来のような高度に発展した技術』の描写がない、というのも特徴的です。
ストーリーが「臓器移植」というすでに存在する技術をベースに作られているからか、あまり現実離れしたような武器や技術は登場しません。だからこそ『Unwind』はかなりリアイティがあって、読んでいると自然と背筋がざわざわするような恐ろしさを感じるのだと思います。

まとめ

今回は、ニール・シャスタマン著の『Unwind』を紹介させていただきました。

子どもがほぼ強制的に臓器移植をさせられる世界…読んでてかなり恐ろしかったです。
特に周囲の人間がなんの疑問もなくそれを生活の一部として取り入れているところなんかもうぞわっとする恐ろしさがありました。
しかも、『Unwind』にはまだまだ続編があるようで…今後それらも徐々に読んでいこうと思ってます。

皆さんもぜひ『Unwind』を手に取っていただけたらと思います。



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