今日紹介する一冊は
ニール・シャスタマン著
『Unwind』です。
社会から「不要」と判断された子供たちが身体をバラバラにされ、「必要」であると判断された人々にパーツを分け与えられるーーという恐ろしい社会のなかで一人の少年が生き延びようと逃亡して社会に立ち向かう話。
— 細羽 ゆう (@remna00) April 4, 2023
「UNWIND」ニール・シャスタマン著のディストピア冒険小説。#ディストピア #洋書紹介 pic.twitter.com/JLS0JSHMvQ
あらすじ
近未来、アメリカ。社会から「不要」と判断された子供たちが【アンワインド(unwind)】という工程によって身体をバラバラにされ、「必要」であると判断された人々にパーツを分け与えられるという恐ろしい社会。そんなディストピアな社会のなかで3人のティーンエイジャーたちが大人たちから逃げ、生き延びようと逃亡する話です。
3人の登場人物はそれぞれコナー、リサ、レヴです。主人公の少年・コナーは幼少から気性が荒く喧嘩っ早いことから、親に見限られてしまい、臓器提供のため【アンワインド】に出されてしまいます。リサは孤児院のコストカットのために【アンワインド】に出された少女です。そしてレヴは両親の宗教的な思想から、【アンワインド】のために育てられた少年です。それぞれ育ち、性格、【アンワインド】に出された理由も様々ですが、ひょんなことから彼らはともに逃亡生活を送ることになります。
果たして彼らは18歳になるまで社会から逃げ続けることができるのか。それとも、つかまって臓器提供者とされてしまうのか…!ページをめくるたびに物語が急展開する近未来系ディストピアです!
登場人物
コナー・ラシター
【アンワインド】に出された少年。気性が荒く、喧嘩っ早いところがあり、それが原因で両親に見限られてしまう。
リサ・ワード
孤児院のコストカットのために【アンワインド】に出される。【アンワインド】に出される前はピアノを弾くのが得意だった。孤児院出身のため、集団生活のなかで身を守る方法を身に着けている。ケガを治療したり、子供の面倒を見るのが得意。
レヴ・キャルダー
両親の宗教的な理由によって【タイズ(tithe)】として【アンワインド】に出された少年。
【タイズ(tithe)】とは、『十分の一税』のことを差し、神に戦利品の十分の一をささげることから来ている。生まれたころから【アンワインド】に出されることを名誉であるとして育てられてきたので、当初は逃げるつもりすらなかった。
アリアナ
コナーの(元)ガールフレンド。
ダン牧師
レヴの良き指導者。レヴの両親の宗教的な思想を支持しているが、一方ではレヴの幸せを願っている。
サイルス・フィンチ(通称Cy-Fi)
過去に脳の移植を受けた青年。その影響でよく幻聴などの症状がある。
感想
めっちゃくちゃディストピアな世界観が最高でした。世界観がもう…怖い。親の署名一つで臓器提供者にされてしまう社会制度自体も怖いんだけど、それを皆が推奨している感じがもう洗脳社会感がすごくて、読んでいて背筋がゾワッと逆立つような恐ろしさがありました。
物語は基本的にコナー、リサ、レヴの3人の視点を行ったり来たりする形式で描かれるのですが、時折、「警察官」とか周囲の人視点で3人の逃亡する様子が描かれたりするので物語全体を通して立体感があってスリルがありました。
倫理を試されてる感じ
臓器提供は許されるべきか?
臓器提供は一体「どこまで」許されるべきか?
というような問いかけをされていると思いました。
よく現実社会でも「遺伝子を組み替えて自分の理想の子供を作ることは許される事か」とか、「死刑制度は廃止すべきか」など様々なディベートがなされていますが、この本に登場する「臓器提供は許される事か」もその一つだと思います。
作中の主人公はみんな、強制的に臓器提供者になることを強いられた子供たちです。この一面だけ見れば、「そんな子供たちの人権を無視するような制度はおかしい!」と怒り出したくなります。
ですが、登場人物の中には、過去に臓器提供を受けて本当なら助からないような病気を治すことができた、と語る人物も多く登場します。現にこの世界では、病院にいつも新鮮な臓器が保存されており、いつでも臓器移植を提供できるように配備されています。
こういった側面を見ると「もし自分が『こちら側』の人間だったら、簡単に臓器移植を受けられるのはありがたい」と感激していると思います。
臓器提供者側と臓器提供を受ける側を同時に描くことによってこの世界のディストピア部分とユートピア部分の対比がはっきりしていて、すごくよかったです。
コメント
コメントを投稿