Ink by Alice Broadway/個人情報を全て体に入れ墨することが義務化された世界で、刺青師として働く少女の物語




今日紹介する一冊は、

アリス・ブロードウェイ(Alice Broadway)作

ink』です。



あらすじ

この物語の舞台は、自分に関する全ての情報が肌に刺青される世界で、刺青師として働く少女の話です。

人々は年齢、性別、戸籍などの情報から、賞罰や職歴、犯罪歴など、全ての情報を肌に刻むことが法によって定められています。

人生の重要な出来事を全て肌に記し、その人が死んだときに法廷でその人の人生が人々の記憶に残されるべき人間かを吟味されます。吟味の結果合格した人の肌は人々が読み返すことができるように本に加工され、大事に保管されます。

一方、犯罪者や反社会勢力など、人々の記憶に残るべきでないと判断された者は、儀式の炎によって焼かれ、存在ごと消し去られ、残された人々はその人のことを思い出すことすら禁じられてしまいます。

特に「ブランカー」と呼ばれる、「刺青を入れることを拒む人たち」も存在し、彼らは反社会勢力として追放されています。

そんな社会の中、肌の刻印は生きた証であり、肌に刻まれたことが全てである、という考え方が浸透しています。


物語は主人公・レオラの父親が死亡し、彼の肌が審判のため法廷に預かられるところから始まります。悲しみに暮れながらも、レオラは刺青師としての勉強に励み、無事弟子入りを果たします。

勉強と仕事で忙しく過ごしていたレオラですが、ある日町の広場で、罪を犯した一人の男性が「罰」としてある刻印を施されているのを目撃します。

その男に施された刻印は、真っ黒なカラスの模様でした。それをみたレオラは、過去にその刻印を何処かで見たことがあると気づきます。

その漆黒のカラスの刻印は、レオラは自分が幼い頃にチラッと見たことのある、父親の背中に刻印されていたものと全く同じものだったのです。

ーー大罪人の刻印と同じものが、自分の父親にも施されていた。

そのことに気づいたレオラは、自分の全く知らなかった父親の過去について疑問を抱くようになるのでした。


読んだ感想

ユートピアとディストピアの混ざったような魅力的な世界観

独特な世界観が素敵だと思いました。

肌に人の個人情報が全て記されているというのは、普通に考えて少し怖いと感じるものです。
社会の外から覗いている読者視線だとどうしてもこういった設定は初めから「閉鎖的で独裁的な洗脳社会」をイメージしてしまいがちです。

実際、私も読み始めたころはそのようなディストピアを想像していたのですが、読み始めてみると案外そういった恐ろしさや不気味さはあまり感じられませんでした。

作中では刺青は宗教的・文化的な意味を持ち、亡くなった人たちを覚えておくために入れられることが印象的に描かれています。
大切な人を記憶に残すために刺青を入れるという設定が、この作品をディストピア的なものではなく、ファンタジー的な雰囲気にしているのだと感じました。


一方で、罪を犯したものへの刻印制度も印象深かったです。
この世界では、犯罪を犯した者には罪に応じて様々な刺青が施され、一般の人にその人の前科がわかるようにされるシステムがあります。

例えば、この社会では犯罪者や前科者は例外なく手首に一本の犯罪線を入れられます。

この箇所を読んでいて、海外で実施されているという、性犯罪を犯した人にGPS発信機を取り付けるというシステムを思い出しました。これと同じように、大きな罪を犯した人を刻印しておけば、人々は犯罪者の再犯による被害に遭わないのではないか。

もちろん、実際そんなことは予算的・倫理的に問題が起きることは明らかですが、もしこのような制度があったら…と少し考えさせられる物語でした。

展開がやや単調


世界観が独特で面白いと感じる一方で、序盤~中盤にかけてやや単調、すこし間延びしていると感じました。
世界観や主人公の生活を描写が細かいのですが、そこに少々凝りすぎている気もします。

感覚的な話になりますが、全体10の物語の8くらいまで日常描写などがあって、後半の2くらいで怒号のスピードで問題が解決されていく感じです。

序盤の緩やかなペースで心地よいと感じていると、だんだん残りのページ数が少なくなってきて「あれ、このペースで大丈夫かな…」と少し不安になってきます。

そこから、残りの30ページくらいで問題が解決されていくので、期待が高まった分不完全燃焼に陥る感覚がありました。

世界観や細かい部分をじっくりと読みたい場合には最適ですが、
ある程度テンポの良い作品を読みたい方にはあまりおすすめできない一冊です。

この作品は第三巻まであるようなので、もう少し先まで読み進めたいと思っています。


まとめ

すべてのことが肌に記されていく社会で、刺青師として働く少女・レオラの物語、「ink」でした。

とても独特でディストピアでありつつファンタジーな要素もある不思議な一冊でした。

皆さんもぜひアリス・ブロードウェイ作「ink」を手に取っていただけたらと思います。



ブログ村ランキングに参加してます!良ければクリックしていただけたら励みになります!
にほんブログ村 本ブログ 洋書へ   にほんブログ村 本ブログへ


コメント